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リグニン分解菌Sphingomonas paucimobilis SYK-6株のプロトカテク酸(PCA)メタ開裂系酵素遺伝子群の構造・機能・転写制御

氏名 原 啓文
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第263号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 リグニン分解菌Sphingomonas paucimobilis SYK-6株のプロトカテク酸(PCA)メタ開裂系酵素遺伝子群の構造・機能・転写制御
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 森川 康
 副査 助教授 岡田 宏文
 副査 助教授 解良 芳夫
 副査 助教授 政井 英司

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目次

序章 p.1

第1章 4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒト(CHMS)デヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)の解析 p.1
1.1 緒言 p.13
1.2 結果 p.13
 1.2.1 CHMSデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)の単雄と塩基配列の決定 p.13
 1.2.2 CHMSデヒドロゲナーゼ(LigC)の酵素学的諸性質 p.17
 1.2.3 CHMSデヒドロゲナーゼ遺伝子(ligC)の 破棄 p.26
1.3 考察 p.34
1.4 材料と方法

第2章 2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)ヒドロラーゼ遺伝子(ligl)の解析
2.1 緒言 p.49
2.2 結果 p.49
 2.2.1 PDCヒドロラーゼ遺伝子(ligl)の単雄と塩基配列の決定 p.49
 2.2.2 PDCヒドロラーゼ(Ligl)の酵素学的諸性質 p.51
 2.2.3 PDCヒドロラーゼ遺伝子(ligl)の 破棄 p.60
2.3 考察 p.62
2.4 材料と方法 p.67

第3章 4-オキサロメサコン酸(OMA)ヒドロラーゼ遺伝子(ligJ)の解析
3.1 緒言 p.71
3.2 結果 p.71
 3.2.1 OMCヒドラターゼ遺伝子(ligJ)の単雄と塩基配列の決定 p.71
 3.2.2 OMCヒドラターゼ(LigJ)の酵素学的諸性質 p.75
 3.2.3 OMCヒドラターゼ遺伝子(ligJ)の破棄 p.81
3.3 考察 p.89

第4章 4-カルボキシ-4-ヒドロキシ-2-オキソアジピン酸(CHA)アルドラーゼ(ligK)の解析
4.1 緒言 p.101
4.2 結果 p.101
 4.2.1 CHAアルドラーゼ遺伝子(ligK)の単雄と塩基配列の決定 p.101
 4.2.2 CHAアルドラーゼ(LigK)の酵素学的諸性質 p.104
 4.2.3 CHAアルドラーゼ遺伝子(ligK)の破棄 p.113
4.3 考察 p.117
4.4 材料と方法 p.122

第5章 PCA4,5-開裂系酵素遺伝子群のオペロン構造の転写制御
5.1 緒言 p.125
5.2 結果 p.125
 5.2.1 ligR,orf1,orf2 の機能解析 p.125
 5.2.2 PCA4,5-開裂系酵素遺伝子群のオペロン構造 p.129
 5.2.3 PCA4,5-開裂系酵素遺伝子群のプロモーター領域へ結合の結合能 p.135
5.3 考察 p.142
5.4 材料と方法 p.151

総括 p.156

参考文献 p.159

謝辞 p.167

木質成分であるリグニンは、自然界で最も多量に存在する芳香族化合物である。その豊富な存在量と芳香環を骨格に持つことから、リグニンの有効な利用法が模索されているが適切な方法は確立されていない。リグニンの利用法の一つとして、リグニンを微生物の分解酵素系を用いて分解し利用できる構造に変換する技術の確立が望まれている。自然界において、高分子リグニンは担子菌の分泌するフェノールオキシダーゼによって低分子化され、低分子化された化合物はバクテリアにより分解を受け無機化されると考えられている。したがってこれら微生物の分解酵素系は、リグニンの生化学的変換利用を行うための有用な道具として利用できる可能性がある。
Sphingomonas paucimobilis SYK-6株は、ユニークで特異性の高い酵素群によってリグニン二量体化合物を分解する能力を有する。
グアイアシル核及びシリンギル核を有するリグニン二量体化合物は分解を受けるとバニリン酸またはシリンガ酸へと変換される。
これらは脱メチル化され、それぞれプロトカテク酸(PCA)と3-O-メチルガリック酸(3MGA)に変換され最終的にPCA 4,5-開裂経路によってオキサロ酢酸とピルビン酸に分解されると考えられている。しかしPCA の分解経路として3,4-開裂経路は多くのバクテリアで遺伝学的、生化学的に詳しく解析されているのに対して、4,5-開裂経路は遺伝学的な解析が全く行われていなかった。本研究では、SYK-6株のリグニン分解の最終段階を担うPCA 4,5-開裂経路を遺伝学的、生化学的に明らかにすることを目的とした。
本研究でSYK-6株のPCA 4,5-開裂経路の最初の反応を担うPCA 4,5-ジオキシゲナーゼ(ligAB)を含む10.5-kb EcoRI断片とその3'側の0.3-kb EcoRI断片を加えた10.8-kbの領域にLigAB以降の反応を担う、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒド(CHMS)デヒドロゲナーゼ(ligC)、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)ヒドロラーゼ(ligI)、4-オキサロメサコン酸(OMA)ヒドラターゼ(ligJ)、4-カルボキシ-4-ヒドロキシ-2-オキソアジピン酸(CHA)アルドラーゼ(ligK)の4つの酵素遺伝子と機能不明の3つのopen reading frame (ORF1, ligR, ORF2)が存在することを示し、それらの一次構造を明らかにした。PCA 4,5-開裂系酵素遺伝子であるligC、ligI、ligJ及びligKを大腸菌で高発現させ、遺伝子産物を各種クロマトグラフィーによって精製した。各精製酵素については、Gas chromatography-mass spectrometryおよびElectrospray ionization-mass spectrometryを用いて酵素反応の産物を同定し、酵素機能を明らかにした。
また動力学的パラメーターを含む酵素学的諸性質をすべての酵素について明らかにした。さらに、PCA 4,5-開裂系遺伝子群のオペロン構造をReverse transcription-PCR法によって解析し、本遺伝子群がligK-ORF1-ligI-lsdAオペロン、ligJABオペロンとモノシストロニックなligRとligCの4つの転写単位から構成されていることが明らかとなった。SYK-6株においてPCA 4,5-開裂系遺伝子群がリグニンの主要な分解中間体であるバニリン酸及びシリンガ酸代謝にどのように関与しているのかを明らかにするために、これら遺伝子の破壊株を作製して解析を行った。その結果、PCA 4,5-開裂系酵素遺伝子のいずれが欠損してもSYK-6株はバニリン酸で生育することができなくなったことから、バニリン酸代謝に関してPCA 4,5-開裂経路は必須であることが明らかとなった。一方、シリンガ酸の分解に関してはligB, ligC, ligIの破壊は生育に影響を与えなかったが、PCA 4,5-開裂系の最後の2段階に関与するligJ及びligKを破壊すると生育能が完全に失われた。これらの結果とligJ破壊株がシリンガ酸代謝中にOMAを蓄積したことから、シリンガ酸は3MGAに変換された後、LigAB以外の芳香環開裂酵素によって環開裂を受けligJの反応段階でPCA 4,5-開裂経路に合流する経路が存在することが明らかとなった。また、代謝系酵素以外では、LysR-type転写アクチベーターと相同性を示すligRがPCA 4,5-開裂系酵素遺伝子群の正の転写調節因子であること、ORF1は芳香族化合物の輸送タンパク質であることが示唆された。ORF2はバニリン酸代謝中に転写されておらず、PCA分解に関与しないことが示された。以上、本研究では、PCA 4,5-開裂系に関わる全ての遺伝子群の構造と機能そしてオペロン構造を初めて明らかにするとともに、低分子リグニン化合物の代謝における本経路の重要性を明らかにした。これらの研究成果から低分子リグニンを有効に利用するための遺伝学的・生化学的情報が得られた。今後、高分子リグニンの分解系とPCA 4,5-開裂系遺伝子群を初めとする低分子リグニン分解系を組み合わせることによって、高分子リグニンからの有用物質の変換系が確立されることが期待される。

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